大人気マンガ『スパイファミリー(SPY FAMILY)』アニメ2期の主題歌であるBUMP OF CHICKENの楽曲『SOUVENIR(スーベニア)』。
メロディの明るさと小気味良いカッティングが印象的なこの曲ですが、歌詞に出てくる主人公と『あなた』の関係がまぁ、尊い。
「秘密も共有してなんでも知ってる仲」というのもいいかもですが、この歌詞はそうではなくて、月よりも遠く、かと思えば自分の向かうべき居場所でもある、そんな近からず遠からずな関係性です。
スパイファミリーに寄せているようで、やっぱりBUMPだな!と思わせる歌詞について深掘りしていくます!!
わくわく!
SOUVENIR(スーベニア)とは
ディズニー名物「スーベニアメダル」といった言葉に馴染みがある方もいるかもしれませんが、そのスーベニアの意味は歌詞にも登場する「お土産」。
実は英語でありつつ、元はフランス語なんですよね(ムダ知識)。
そんなSOUVENIRですが、楽曲名発表当初から
「お土産が何を意味しているのだろう?」
「誰から誰に対するお土産?」
などと話題になっていましたね。
そんなSOUVENIRの歌詞について、BUMPファン歴10年以上の私が1単語1フレーズ噛み締めながら、考察・解説していきます!
歌詞のストーリーや登場人物の関係を考察!
SOUVENIR(スーベニア)のテーマ
今回のテーマは、歌詞にもたびたび登場する『帰り道』ではないでしょうか。
ここで言う『帰り道』は、待っている人に向かって帰る途中のこと。
歩いて歩いて 時々なんか急いで あなたに向かう道を
作詞:藤原基央
という歌詞も出てきますしね。
独身一人暮らしの身としてはなんだか胸が痛い気がしてしまいますが、一人暮らしだからこそ帰り道の先に『あなた』がいるありがたさが身に沁みます。
スパイファミリーアニメ1期のEDであった星野源さんの『喜劇』の
「こんなことがあった」って
君と話したかったんだ
作詞:星野源
という歌詞に通ずるものがありますね。
登場人物
今回は一人称は登場せず、アニメのキャラでも自分でも当てはめて聴くことができます。
主人公はスパイファミリーに出てくる女の子のアーニャでも、その両親(という体)であるロイドさんやヨルさんでも、もちろんこれを聴いている我々でも、当てはめて聴くことができます。
そしてそれは『あなた』という登場人物にも当てはめられますね。
アーニャから見たロイドさんヨルさんかもしれないし、逆かもしれないし、ロイドさんから見たヨルさんかもしれないし。
もちろん私達から見た親かもしれないし、恋人かもしれないし、友人や先生だったりするかもしれない。
自分の帰りを迎えてくれる人がいる(またはいたことのある)すべての人に、温かい感情を与えてくれる歌詞です。
主人公と「あなた」の関係は?
『あなた』は『種と仕掛け』
主人公から見て、『あなた』は『種と仕掛け』です。
恐らく気付いてしまったみたい
あくびの色した毎日を
丸ごと映画の様に変える
種と仕掛けに出会えた事
作詞:藤原基央
『あくび』というのは一般的に「つまらない、退屈」の比喩として使われることの多い言葉です。
(実際はつまらないからあくびが出るのではなく、脳の酸欠のシグナルという説が濃厚…というのは多分藤くんも分かってることでしょう、科学の講師なので)
そして『映画』は「起承転結があり、ドラマがあり、感情が大きく揺すぶられる」、簡単に言えば「楽しい」ものです。
アーニャ的に言うと「ワクワク」ですかね。
そんなあくびが出るほど退屈で平凡だった毎日がワクワクに変わるとは、まるで手品みたいですよね。
そんな手品の『種と仕掛け』が『あなた』であることに、『恐らく気づいてしまったみたい』。
これって劇的な出会いというわけでなく、そんな映画のような日常になっていったなかで、ふと気づいたというニュアンスじゃないでしょうか?
スパイファミリーに当てはめると、任務に必要な妻と子どもを調達したら、その日常が今までの価値観を変える『映画』のような日々になったロイドさんとも捉えられます。
もちろんヨルさん、アーニャにも同じことが言えますし。
こうやって、日常を振り返って『あなたのおかげで…』と思える、素敵な関係です。
秘密の共有を強要しない居心地のいい関係
どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの
あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道
作詞:藤原基央
後半でこんな歌詞が出てきます。
『あなたの昨日も明日も知らない』というのは、お互いの素性を明かさず一緒にいるロイド家族みたいですね。
ロイドさんもヨルさんも自分の企みのために婚姻関係を結んだわけで、日中お互いが何をしているか知らない。
でもそれはネガティブな意味ではなくて、「家族なんだから秘密は無し!」という謎の価値観を押し付けず暮らせるって、たとえスパイやころし屋でなくとも居心地がいいですよね。
帰り道をくれる関係
どこから話そう あなたに貰った この帰り道
作詞:藤原基央
先ほど説明したとおり、この歌詞において『帰り道』は『あなた』に向かっています。
『あなた』がいるからこそ、景色や感情はお土産になる。
『あなた』がいるからこそ、『あなた』に話したいことを探してしまう。
帰ってから親に「こんなことがあったよ!」とマシンガンのように話していた幼少期を思い出します。
そして、大人になってもそういうお土産をわざわざ拾ってしまうような帰り道をくれる、素敵な関係性ですね。
ここからは、歌詞を一つ一つ拾って考察していきます。
SOUVENIRのフレーズを順に考察!
この曲における『空』の存在とは
仲良くなれない空の下
心はしまって鍵かけて
そんな風にどうにか生きてきた
メロディが重なった
作詞:藤原基央
『空』と聞くと広大な大空を思い浮かべてしまうのですが、この曲において『空』は割とちっぽけな存在ではないかと考察しました。
このあとの歌詞で、『月より遠い世界』『宇宙の果て』が出てくるんですよ。
『心』=本音や感情を隠して、狭い世界の人たちと接していた主人公の姿が想像できます。
『メロディ』が重なるとは
しかし、そうして生きてきたなかで、『メロディが重なった』。
やはり劇的な出会いというわけでなく、ただ自分の生きる日常に、『あなた』の人生が織り混ざってきただけ。
あらゆる曲も、注意を向けて聴いていないと「どの部分でどの楽器が混ざってきた」って分からないですよね。
それくらい自然に、スッと、日常に変化があったというニュアンスではないでしょうか。
街灯よりも目立つ目印
小さくたっていい 街のどんな灯よりも
ちゃんと見つけられる 目印が欲しかった
作詞:藤原基央
街灯やネオンサインってめっちゃ明るくて目立つのに、見つけられないなんてことがあるのだろうか…
…と思ってしまいますが、そんな灯たちだって、日常ではただの景色として、もはや「灯がある」と知覚すらしなくなります。
後半の歌詞に、
迷わないでいいと 言ってくれたように
作詞:藤原基央
というフレーズがありますが、これがヒントではないでしょうか。
街灯のように、目で見て目立つものではなく、自分の生き方や考え方、居場所を『迷わない』ですむ『目印』を、無意識のうちに主人公は望んでいた。
そして出会えたのが『あなた』だったということでしょう。
『街の灯』と『選んだ景色』の対比
この目が選んだ景色に ひとつずつリボンかけて
お土産みたいに集めながら続くよ 帰り道
作詞:藤原基央
先ほど『街の灯』が出てきましたが、それらはただ目に入って光を知覚しているだけなんですよね。
それに対し、『あなた』がいるからこそ、『あなた』に伝えたくて、面白いもの(たとえば毎日大きくなるカマキリの卵とか…)、キレイなもの(たとえば山にかかる雲の影とか)、不思議なもの(たとえば蜃気楼とか)を主体的に見つけてしまう。
それらが、曲名にもなっているSOUVENIR=お土産なんですね。
人は選択的にモノを見ているので、「伝えたい」と思う相手がいるからこそ、日常のささいな景色の変化や感情に気付けて、拾って帰れるのでしょう。
(こういう表現、さすが科学の先生BUMPらしいなぁ)
あの主人公が!?季節も涙もあげたくなる存在
季節が挨拶くれたよ 涙もちょっと拾ったよ
どこから話そう あなたに貰った この帰り道
作詞:藤原基央
『帰り道』を「貰う」なんて表現、どっから出てきたの!??
この曲で一番好きな表現かも…。
それに”相手ありき”の『帰り道』であることを示唆する、この歌詞の割と核みたいな部分では?
…表現への興奮はさておき。
この時期だと金木犀の香りがしたとか、稲が頭を垂れていたとか、そういう季節の変化を感じる景色も、大事に人にこそ伝えたくなりますよね。
というか、そんないわばどうでもいいことを伝えたくなるからこそ、その相手は大事な人なのかもしれません。
そして『涙』も拾って伝えたくなるという影の描写もまた、BUMPっぽい。
しかも心に鍵を掛けて生きてきた主人公がですよ。
泣きたくなるようなこと、つまり本音に近い部分まで共有したくなるほど『あなた』は大きな存在ということが分かっちゃう表現ですよね。
お土産を渡したくて仕方ない帰り道
歩いて歩いて 時々なんか急いで あなたに向かう道を
走って走って いやいややっぱ歩いて あなたに向かう道を
作詞:藤原基央
コール・アンド・レスポンスチャンスktkr。
近年は積極的にぶち込んでくれますよね。どんだけリスナーと一緒に歌いたいんですか…涙
『帰り道』を『あなたに向かう道』と表現することで、やっぱり相手ありきの帰り道であることが明確にされます。
拾った景色を、感情を、早く伝えたくてウキウキしている様子が描かれています。
一般的なお土産も、いわゆるお土産話も、相手の反応をちょっと期待してしまいますよね。
「このお土産を渡したら喜んでくれるかな」
「この話、『ありえねー!』って笑ってくれるかな」
そんなことを考えてそわそわしている帰り道、誰にでも思い当たるシーンがあるのでは?
繰り返すメロディの続きをくれた『あなた』
こうなるべくしてなったみたい
通り過ぎるばっかの毎日に
そこにいた証拠を探した
メロディが繋がった
作詞:藤原基央
おそらく、主人公の毎日は同じメロディの繰り返しだったのでしょう。
本音を隠して、ただ流れてくる会話や状況に反応して、感情は上振れも下振れもしない、そんな単調なメロディ。
景色だって『通り過ぎるばっか』で全然拾ってない…。
そしてそのメロディはどこに繋がるのか、何の意味があるのか分からなくなった大人がよく吐くセリフが「何のために生きているのだろう。」
大人になるとこの感じ、めーっちゃ分かる。
が。
『あなた』に出会ったことで新しいメロディに出会って、曲の続きに繋がって、主人公の毎日に流れる曲が鮮やかになった。
『なるべくしてなった』というのは、そのメロディの繋がりがあまりにも自然で、今までの無為に生きていた日々もこの人と出会うためのAメロだったのではないかと思えるほど、ということだと考察しました。
自分も『あなた』の居場所
そうしてくれたように 手を振って知らせるよ
迷わないでいいと 言ってくれたように
作詞:藤原基央
単調なメロディで生き方に迷ってしまっていた主人公に、『あなた』は『迷わないでいい』と言ったんですね。
そして『あなた』が自分の居場所、生きる意味となってくれたように、自分も『あなた』の居場所になっています。
『昨日も明日も知らない』というのはネガティブではない
どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの
あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道
作詞:藤原基央
『HAPPY』や『なないろ』などでも藤くんは人生を『旅』と表現していますね。
(『ナイフ』や『ダイヤモンド』では何かに向かって踏み出すことを『旅』と表現していますが、おそらく今回の『SOUVENIR』にはそういった主体的な『旅』の意味はないかと。)
先ほどのフレーズで主人公が『あなた』の居場所にもなっていることが表現されていましたが、だからこそ一方的に「見つけた」のではなく『見つけ合うことができた』というフレーズなのでしょう。
『あなたの昨日も明日も知らない』というフレーズは一見ネガティブな意味にも読めますが、私は決してそうではないと思っています。
むしろ干渉しあわずお互いが伝えたいと思った感情、渡したいと思ったお土産を贈り合える、居心地のいい関係なんじゃないかな〜。
笑って”くれた”の真意
土砂降り 一体何回くぐって 笑ってくれたの
月より遠い世界から辿ってきた 帰り道
作詞:藤原基央
今笑っている『あなた』の過去の苦しみや悲しみに思いを馳せる主人公。
そこまで考えられるのって、自分もそういった過去があるからこそなのかもしれません。
そして自分が『あなた』の居場所になり得ているからこそ『笑って”くれた”』という喜びを感じられているのでしょう。
冒頭で『仲良くなれない空の下』というフレーズが出てきましたが、ここでは空を飛び出して『月より遠い世界』が出てきました。
『あなた』は今日、自分の知らない世界で泣いたり怒ったりしていたかもしれない。
でも、そんな自分には分からない『月より遠い世界』からも、ちゃんと帰ってくるのは自分のところ。
『あなた』という居場所があることだけでなく、自分が『あなた』の居場所であるという事実に対しても、居心地の良さを感じているように思えます。
SOUVENIRから考えるBUMP
タイアップしてもぶれない哲学
BUMPの歌詞のいいところは、タイアップ先の作品に寄せることはあっても、哲学や芯はBUMPのままなんですよね。
この歌詞は”BUMPの思う「帰り道」「お土産」”であり、”BUMPの考えるスパイファミリー”なんですよ。
あくまで『BUMPの楽曲』という点は変わらずに、そのタイアップ作品を知らないファンも置き去りにしないし、タイアップ作品が好きな人はより楽しむ要素が増える。
もちろんその作品にベッタリ寄せた歌詞を書くアーティストさんも素敵なのですが、そうでない部分がBUMP独特のいいところと言えるのではないでしょうか。
私も以前までは
「タイアップって、結局その作品のための歌詞であって作詞者の考えとは離れるのでは?」
と思っていたのですが、BUMP仲間が
「結局作詞者である藤くんのなかにある作詞の軸みたいなものは変わらないし、タイアップ作品があったからこそ呼び起こされてきた言葉もある」
と言ってて、確かに!と思ったし、その考え方がすでにBUMPっぽいと思いました(小並感)。
BUMPの過去の「あの曲」と関連してる…?
毎回新曲が出るたびに「あの曲とつながってそう!」と思うのはBUMP好きあるあるかもしれません。
それもまた、上記のようなぶれない哲学があるからなんですけども。
今回はどっぷり「あの曲だ!」という感覚よりも、「あの曲の人物が成長したのかな?」とか「あの曲の哲学が受け継がれてる!」という感覚が多かった気がします。
もちろん正解はないと思いますが、「たしかに~」くらいに思っていただけると幸いです。
ウェザーリポート
BUMPの『帰り道』ソングといえば『ウェザーリポート』ですよね(※個人差があります)。
聴くだけで夕焼けのピンクやオレンジと東に少し残ったブルー、傘のイエローが浮かぶカラフルな歌詞ですが、そんな景色が『お土産』になるんだろうなぁと思い浮かべてしまいました。
ほんとのほんと
仲良くなれない空の下
心はしまって鍵かけて
そんな風にどうにか生きてきた
作詞:藤原基央
この部分は、心の本音に鍵をかけている『ほんとのほんと』の主人公のよう。
『あなた』と出会う前の主人公は、まさに『ほんとのほんと』に出てくるような『生き方が雑』な大人だったのではないでしょうか。
それは傍から見たら器用に生きているように見えても。
新世界…?
『SOUVENIR』を初めて聴いたとき、メロディの明るさと歌詞の雰囲気から『新世界』を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか?
ただ、新世界はけっこう劇的な出会いだったんですよね。
君と会った時僕の今日までが意味を貰ったよ
作詞:藤原基央
サラサラと続く日常でふと『あなた』の存在を想う『SOUVENIR』と、『君』との出会いで今までの人生を肯定するような感覚を覚える『新世界』。
相手の存在に喜びを感じている部分がすごく似ているようで、「出会い」にフォーカスするとまた意味が違うストーリーであるのが、BUMPの歌詞の面白いところでもあります。
大人気漫画であり、もはや国民的大人気アニメと言ってもいいスパイファミリー。
ポケモンやコナンに引き続き、そんな日本を代表する作品のタイアップが続くBUMPでも、やはり聴き手や『あなた』に寄り添うような歌詞の芯は変わらないなぁと感じさせられました。