なぜ流行ったのか
初めに。
私は誰がどう見ても「大人」という年齢で、若い子たちの間で流行している「香水」がなぜ流行ってるのかわかりませんでした。
もちろん悪い歌詞だとは思ってません!
ただ最近の流行とは程遠いシンプルな曲、分かりやすい歌詞の「香水」が、いま、流行していることが不思議だったんです。
しかもTiktokや弾き語りカバーで流行しているらしいけど、Tiktokに結び付くキャッチーさが見当たらない。
それにしても異様に流行ってるので、「なんで?」というのは作詞家としてちゃんと知りたいなと思って、歌詞という点からを考察してみました。
歌詞はこちらから読めます。
作詞:8s
何といっても、分かりやすい
読んだままの解釈でOK
多分この記事を読もうと思った方はほぼ確実に「音楽好き」の方だと思うのですが、「香水」って極めて分かりやすい歌詞だと言うと理解していただけると思います。
世の中、「どういうことだろう?」と考えた上で人それぞれの解釈ができる曲が多いじゃないですか。
でも「香水」の歌詞は見たまんま、読んだまんまの解釈ができる。
有名なあのサビを思い出してみてください。
言葉、そのまんまです。
別にもう「僕」は「君」を求めてはいない。
でも今、近くにいるからこそ、香水の匂いで付き合っていた時を思い出す。
香水の匂いが人の思い出を引き出すトリガーになることは割と共通認識ですから、「なんで香水のせいなの?」とはまずなりませんよね。
香水という題材
「分かりやすさ」は別に「つまらない」ということではなく、言葉の選び方が上手いんだなと思います。
たとえばこの「ドルガバの香水」の部分が「君の作るパスタ」とかだと、共感できる人が減ると思うんです。
パスタは男性でも作る人は多いし誰が作っても同じ味になりがちで印象に残るとは言い難いです。
また、手料理を作ってもらえる関係って「どっちかが一人暮らし」か「同棲している」か、と割と大人なんですよね。
だから「君の作るパスタ」だと高校生はあまりピンとこないし、男性は元カノの作ったパスタが印象に残るとは考えづらい。
考察いらず
そう思うと、「香水」=匂いって、柔軟剤やシャンプー、その人の実家の匂いなど、学生さんでも共感しやすいんですよね。
ませている高校生ならなおさら、まさしく「元恋人の香水の匂い」に共感できそうです。
考察が要らず、誰でも一度聞けば理解できる。
更に想像しやすい言葉を選んでいる。
これが「なぜ流行?」の理由の1つでしょう。
新感覚なフレーズたち
ドルガバ
まず言及すべきは
「ドルチェ&ガッバーナ」
でしょう。
私も若いフォロワーさんたちが「ドルガバの香水」を連呼しているのを見てこの曲が流行っていることを知りました。
通称ドルガバ。
表参道ヒルズの、ひときわ目を引くあのカラフルなお店です。
具体的なブランド名を歌詞に入れることはロックバンドやHIPHOPでは特に珍しいことではありません。
ただ、「香水」の曲調はいたってシンプルなもので、具体的なブランド名を入れてキャッチーに仕上げるものではない雰囲気の曲です。
しかもあのドルガバ。
デザイナーのガッバーナ氏はお騒がせなイメージもあるブランドです。
そのブランド名が置いてあるだけで
「アコギ弾き語りで優しい声で、”ドルガバ”???」
というギャップが印象に残りやすいのだと考察しました。
ライン
また、LINEも具体的な企業名・サービス名なのであまり歌詞に登場しないワードです。
有名どころだと、やはりロックバンドになりますが、キュウソネコカミの歌詞に出てくるくらいでしょうか。
一時期ツイッターで「そろそろ西野カナがラインの既読無視を題材にした歌を出すのでは」と話題になりました。
しかしサービス開始から約10年経っても、あまりLINEは歌詞に出てこないですね。
だからこそ、「ものすごく馴染みのあるワードなのに歌の中で聴くと新鮮!」という『新感覚』もウケたのでしょう。
クズ
「クズ」という語調が強くて意味が尖った言葉も、こういうゆったりした曲調の曲には(というかJ-POPでは)あまり入れない言葉ですよね。
ある意味フックのあるフレーズとも言えます。
というか作詞をする目線で言うと、「クズ」ってメロディに乗りにくくて使いづらいんです。
英語の’causeみたいな発音でカッコつけて使うとか、工夫しないと音的にダサくなりがちなんですよね。
そこを逆手にとってか、思いっきり歌のメロディの中に言葉としてハッキリ「クズ」と入れ込んでいるのはさすがというか、これもまたある意味『新感覚』かもしれません。
自虐は共感しやすい
尖りのあるフレーズ
さっき「クズ」というフレーズに触れましたが、そもそもひとことで「クズ」といっても意味が広いですよね。
異性関係にだらしないとか、
片付けができないとか、
借りた金返さないとか。
「クズ」という尖りのある言葉を入れることで耳に残り、さらに各々自分に当てはめて想像し共感やすい部分でもあります。
自虐ソングは共感されやすい
SNSを見ていても思うのですが、自虐って共感されやすいですよね。
「~してしまった」「私なんて○〇なので~~」「~~でごめんね」系のツイートはよくバズります。
KinKiKidsの「雪白の月」という曲や、RADWIMPSの「me me she」なんかも自虐交じりの失恋ソングです。
自虐が共感を得やすい、または励ますのに使われていることに言及している論文もあります。
(なぜ人はユーモアを感じさせる言動をとるのか? 塚脇, 越, 樋口, 深田, 2009)
恐らくネガティブな感情に対する「自分だけじゃないんだ」という安堵感は快感なのでしょうね。
過去の美化も共感されやすい
しかも「香水」は題材に「過去の恋愛」を扱ったもの。
過去の恋愛なんてだいたい誰でも苦い感情を抱きます。
この歌詞は「あの頃に比べて自分はクズになってしまった」というように言っていますが、最後には「同じことの繰り返し」なんて言ってます。
「同じこと」
…つまり付き合っていた時も、「僕」はまぁまぁクズだったのではないでしょうか。
要するに、過去を美化して「昔はよかったけど今はもうクズになっちゃった」と言っているだけだと解釈しました。
過去を美化して「あの頃の自分はよかった。今の自分なんて…」と思うことは誰にでもあります。
この「誰にでもあること」をうまく抽象化して共感を呼びやすくしているのかなと考察しました。(もちろん意図していたかは定かではありませんが)
以上大きく3点、「香水」の歌詞についてまとめてみました。
考察してみて思いましたが、あくまでこれらは結果論でしかないです。
分かりやすいから売れるかと言えばそうではないし、キャッチーな言葉をアコースティックな曲に入れればウケるかと言えばそれも博打です。
でも「なんで流行ってるのか分からない」と言い捨てている自分が嫌なので良いところを探してみたら、前よりもこの曲が好きになりました。
誰かの考察のお役に立てれば何よりです!