今年発売されたミニアルバム「よふかしのうた」に収録されたこの曲。
「板の上の魔物」はドラマ「べしゃり暮らし」のテーマソングにもなりました。
「板の上の魔物」は、そんなお笑い芸人を始め
板=ステージ
で勝負する人たちの緊張感や葛藤が感じられる楽曲です。
作詞担当のR指定さんのワードセンスが飛びぬけて光るこの歌詞は、作詞をしている私から見ても大尊敬です。
今回はこの「板の上の魔物」の歌詞のワードセンスの魅力を、頭からしっぽ、A~Zまで解説しつくします!
作詞:R-指定
呑まれちゃ一巻の終わり
時間はもう迫ってる
参観日のガキのごとく妙な気分で待ってる
何か起こりそうな予感
研ぎ澄ませテメェの五感
無冠の帝王じゃ終われへん
成し遂げてから死ななアカン
やたらヤバめ発汗作用
ナイトフライト夜間飛行
ブッ倒れて急患で運ばれるほど
振り絞ってこそ得られる生きてる実感
ここ!ここ!気づきました?
1巻〜10巻(冠?)という言葉が隠れてます。
私はついこないだふとこの曲を口ずさんでた時、アクセントのある部分が数字になっていることに今更ながら気がつきました。
音程もだんだん上がっていってますね。
しかも数字だけでなく「〜かん」に続く言葉が詰め込まれている。
べしゃり暮らしの原作が漫画であるから「巻」なのか、無冠という言葉も出てくるように、また自他共に認める最強と天才のコンビだから「冠」なのか。
しかも単なる言葉遊びでなく、ちゃんと意味をなす文になってるのがすごい。
冒頭の「今日の空気」を気にするとこから繋がる
「呑まれちゃ一巻の終わり」、
からの「客が〜ブチかますだけ」。
「参観日のガキのごとく嫌な気分」
という誰でも分かるがありふれてなどいない例え。
すごい…作詞家として国中に讃えられるべきでは?
この板の上には魔物が潜むぜ
作詞:R-指定
屍の山掻き分けて
お気張りやすbaby陽の目浴びるまで
べしゃりブリバリエブリデイ
泣くも笑うも己次第、相方(mymen)
末路憐れも覚悟の上
板の上の魔物、つまり時に緊張、時に気の緩みをもたらす板の上の空気みたいなもの。
そんな魔物にやられて戦闘不能になった屍、つまりライバルや過去の自分を掻き分け自分たちに向け「お気張りやす」。
バ行の羅列が軽快でなんか強そうな響きです(語彙の屍)
「末路哀れは覚悟の前」というのは私も知らなかったのですが、落語家の4代目桂米團治師匠のお言葉なんですね。
ラジオ盤CDのOPトークにも名前が出てきます。
綱渡りという言葉は「ぬえの鳴く夜は」でも出てきました。
努力と才能とセンスと運で人気も波があるような芸能界は、きっとハイリスクで、まさに「綱渡り」ということなんでしょう。
ここからは「板の上の魔物」という実態のないものを擬人化した歌詞が続きます。
「阿婆擦れ」「俺から退屈を奪わないでくれ」など彼らの曲は何かを擬人化した歌詞が面白いですよね。
板の上の魔物コイツは俺の友達
作詞:R-指定
大きな口を開けて待ち構えてる奈落 底なし
奴は俺の泳いだ目が好き 震える手が好き
暇さえあれば俺を殺しに来る
だけどソコが良い
魔物を友達と呼んでいるところが「最強」の余裕を感じさせますね。
さすがラスボス。
奈落は、「奈落の底に落とされる」などどん底の状態の例えによく使われますが、本来歌舞伎などの舞台の下を奈落といいます。
更に元の意味は仏教での「地獄」。
奈落はまさに板の上の魔物という曲においてピッタリの言葉です。
暇さえあれば殺しにくるのに「だけどソコがいい」とはまた余裕のセリフですね。
ソコがいい。
緊張が舌に絡みついて
作詞:R-指定
上がったテンションが喉を焼く
焦りが体内の水分を奪い肺を締め付ける
息も絶え絶え やべーやべー
コレじゃ身がもたねぇ
みたいな日々の鍛錬が飯の種
緊張状態の身体的特徴をこんなにわかりやすく伝えられるのすごくないですか?
病院行った時困らなそう。
ここの「やべーやべー」のちょっと余裕っぽい言い方が好きです。
苦しい状況を「鍛錬」と呼べるとこ然り、やっぱりなんか余裕ありません?
かっけぇ。
あ から ん から
A から Zまで
巧みに使いこなし
作詞:R-指定
ほらヤワなメッキじゃ剥がれ落ち真っ逆さま
アイツの胃の中に収まる
井の中の蛙じゃ意のままに操られて終わる
いつか手なずける 悪いが俺ら手段は選ばねぇ
ここはまさにラップの描写。
日本語も英語も諺も慣用句も使いこなす様ですね。
メッキと言えば「グレートジャーニー 」にも「偽りのメッキ」という言葉が出てきます。
偽りのメッキじゃ金属探知機で引っかかるが、俺はセーフというような歌詞です。
どちらも小手先や流行りだけのテクニックじゃ「あからん、AからZまで」使いこなす俺のように勝ち続けられないぜという最強の余裕が伺えます。
かっけーよ…
胃の中、井の中、意のまま。
この韻の踏み方が好きです。
魔物を手なずけるために選ばないという「手段」が、次の歌詞です。
例えばradioから 深夜のTVshowまで
異常なトークショーから
いつものこのステージ上まで毎日ベロ、筋肉痛 で握るマイクロフォン
売れまくりのピンサロ嬢か俺ぐらいのもん
作詞:R-指定
ラジオやテレビで緊張に慣れる。
ライブを選り好みせず出演し(アイドルなどとも対バン?してましたね)、ステージ自体で場慣れする。
魔物に負けず実力を発揮するためには言い訳してる暇も手段を選んでる暇もない。
異常なトークショーはトーク番組かなとも思います。
特に松永さんがよくトーク番組についてぼやいてるのを見かけます(笑)
松永さん絶対テレビのトーク向いてるけどな…。
まぁオールナイトニッポンのトークも異常っちゃ異常ですけどね。
だけどソコがいい!
その後の例えは分かりますか?
毎日毎日、ベロが筋肉痛。
で、毎日毎日「マイク」を握る。
RIP SLYMEの「熱帯夜」にもピ〇サロ嬢の件と同じ例えの「マイク」が出てきますね。
毎日毎日しゃべり歌い続けること、つまり結局は継続的な努力が魔物を手なずける「手段」なんですね。
多分彼らは「努力」だなんて堅苦しく考えてないかもしれませんが…だから長続きできるのかな?
「つまらねぇお前の人生はつまらねぇ」
作詞:R-指定
ずっとコイツに言われ続けて来た今の今まで
「つまらねぇお前の人生はつまらねぇ」
だから俺はテメェにある武器ただ磨いて来ただけ
ステージに立つたび魔物に痛感させられた自分の人生のつまらなさ。
HIPHOPに似つかわしい不良でもないし、
人の興味を惹くほどの不幸な出自でもないし、
強烈な個性があるわけでもない。
だから、「普通」でも輝くために自分の出来る努力をし続けてきたんだと、そういうことだと思います。
もうさぁ…かっけーよ…
キャラやコネ、一時の流行だけで目立ってるやつのメッキが剥がれてオワコン化することがあっても、磨いてきたワードセンスや即興力、タンテ捌きなどは奪われることはありません。
月並みですが、努力は裏切らないってやつですね。
かっけーよ…
そしてまァこの後の歌詞がまた、ぜんっぜんつまらなくねぇんです。
作詞:R-指定
俺の感受性ならば尾崎
世界観なら底なし
武、水谷、馬並みの相棒が助太刀
私はここの歌詞が耳に入って脳に到達した瞬間にこの曲が大好きになりました。
感受性が豊か→尾崎豊→尾崎。
尾崎つながりの尾崎世界観。
(:ロックバンド、クリープハイプのボーカル)
豊つながりで武豊→競馬(馬)。
水谷豊→ドラマ相棒。
相棒の助太刀でRさんの相棒、松永さんのスクラッチ。
なんじゃこの斬新なしりとりは。
鳥肌もんですよね。
さっきは「奈落底なし」という言葉が出てきました。
そしてここでは「世界観なら底なし」。
僅か数小節に詰め込みすぎだろ…。
時代が時代なら関白、いや天皇でしょう。
令和三十六歌仙とかあったら入るでしょうね。
クリープハイプといえば、私はクリーピーナッツをクリープハイプと見間違えたことから彼らを知りました。
奇しくも、平日昼のラジオ「ACTION」のパーソナリティを火曜は尾崎世界観、水曜はDJ松永が務めています。
作詞:R-指定
いつかのワナビーが
周りみれば天才に鬼才に強者ばかりさ
いつかのワナビーも「ぬえの鳴く夜は」に登場します。
自分の”一物”に気づいていなかった少年が気付けば強者しか居ないとこまで登りつめた。
成長を感じさせるフレーズです。
今日もまた何処かの若手が折られる鼻っ柱
作詞:R-指定
1.2分すりゃ身の丈知り鳴り出すカラータイマー
中堅には反り立つ壁 埋まらねぇ上との差
あのベテランも喉元には突き立てられっぱなしのキバ
これはどこの世界でも同じですね。
中堅以上って本当に一握りだし、その一握りもいつ転がり落ちるか、落とされるかも知れない。
テレビを観ていても、誰もが知る有名芸能人がちょっとしたことで転落していくことが分かります。
若手に抜かされるだけでなく、
スキャンダル、闇営業、ハニトラ…
上に行けば行くほど、キバを剥く人の範囲が広がるんだろうな…。
作詞:R-指定
逆に可愛がってやる…
I’m a シラフのムツゴロウ
「よーしよしよし」腹空かしてる 話しかけるいつものよう
つまらねぇ!俺の人生はつまらねぇか?
ならば全部此処に置いてくから心して喰らえ
シラフのムツゴロウて(笑)
まるでムツゴロウさんがキメてるみたいな言い様だな(笑)
ていうか今の若い子ムツゴロウさん知ってる…?
「よーしよしよし」と言って生き物を愛でるおじさんです。
平成初期~中期によくテレビにでてたんですよ。
最初に出てきた「誰と話してんのか」の対象を魔物に向け、可愛がると。
「腹空かしてる話しかける」は「スカしてる仕掛ける」を掛けてるのかな?なんて思ったりしてます。
いかがでしょうか。Rさんのみぞ知る。
腹空かせた板の上の魔物よ、俺の人生がつまらねえってんなら、俺の全部を「ここ=板の上」に捧げるから食ってみろ。という余裕。
かっけー…
Creepy Nutsの歌詞の感想が長くなっちゃうのは他のアーティストの歌詞が1番と2番にかけてやるようなダブルミーニングを一言で済ませちゃうからなのでは?と思います。
一言一言いくつも意味がかかってる言葉をバンバン置いてくから、一つ一つ拾ってくと感想が長くなります…。
たりないふたりの卑屈なぼやきも最強と天才ふたりのカッコいい生き様も結局はたりない我々の糧。
努力しようよ!と言われるとすごく嫌な感じがしますが、彼らの歌を聴くと自ずと努力しなきゃなぁと思えてきます。
国語の教科書に載る日も遠くないはずです。
松永さんもほら、王になるために「頑張ろっ」
って言ってたし。
頑張ろ。