2020年秋にリリースされたaikoさんの楽曲「ハニーメモリー」。
アカペラ&3拍子が冒頭から強く印象に残ります。
「僕」の状況について考察
今回はaikoさんには珍しく1人称が「僕」の歌詞です。
aikoさんの多くの楽曲で一人称が「あたし」であることを考慮すると、「僕」であることにはきちんと意味がありそうです。
つまり今回の主人公は「男性」で間違いないでしょう。
そして何度も後悔しているような描写があることから、失恋したことが予想できます。
さらに、男性が置かれている状況は、以下のフレーズでだいたい理解できます。
繰り返してきた春に僕はいつの日からか
隣にいる君じゃなく違う花食べた
作詞:AIKO
『繰り返してきた春』=「君」とは数年単位で付き合っていた
『違う花食べた』=浮気をした
『いつの日からか』=浮気相手とは一時の過ちなどではなく、ある程度長い期間関係を持っていた
さらに、「洗面所」というワードから、「君」とは同棲していたことも分かります。
この「洗面所」という部分については後ほど深掘りします。
女性の敵すぎて絶句…。
「洗面所だけ電気が付いてた」
印象的かつ、具体的なエピソード。
ここから、2つのことが想像できました。
「君」は浮気に気付いていた
電気が付いていたのは洗面所「だけ」。
普通、帰りを待っていたら玄関の電気をつけておきますよね。でも、洗面所「だけ」というのが意味深。
「君」は浮気に気付いていて、でも気づかないふりをしていて、せめて浮気相手の匂いを落としてからベッドに入ってほしかったのではないでしょうか。
あるいは、他の女と身体の関係を持っていることを信じたくなくて、
「ご飯は食べてきたんでしょう。お風呂はまさか入ってないよね。」
というメッセージなのかもしれません。
「君」と「僕」は問題を抱えていた
このフレーズのあとに、こんなセリフが続きます。
ごめんね でも 素直になれなかった
作詞:AIKO
「君」は単に、帰りが遅くて怒っていたのかもしれません。
2番のサビで二人はすれ違っていたことが分かります。
「君」は、きちんとそのことについて話したかったのかもしれません。
でも「僕」の帰りがいつも遅くて離せない。
せめてもの抵抗で玄関の電気は付けずに意味ありげに洗面所だけ電気をつけていた。
そんな「君」の気持ちに気付いていたけど、素直に向き合えなかった。
…そんな「ごめんね」だったと捉えられます。
または、その「問題」というのが、いわゆる「レス」だったのではないかとも考えられます。
『朝陽が溶かすよ』というフレーズから、『なんとなく続いてく問題』は夜に起こる問題だと考察できます。
と、すると、洗面所の電気が付いていることで、その行為を待ちわびているメッセージだったと解釈しました。
…どちらにせよ、こんなに妄想を膨らませられるフレーズってすごいですよね…。
「心臓は5個あったらいいな」
2番の軽快でジャジーなピアノに乗せた、これまた印象的なフレーズ。
「心臓は5個あったらいいな 入れ替えたらあなたの前でずっと笑ってられるわ」
ほんとうに…僕は粉々になった
作詞:AIKO
「彼が浮気しているかもしれない」
という不安や疑念、怒りや悲しみで心臓がどきどきしてしまい、「君」は「あなた」=「僕」の前では笑っていられないほどになってしまったんですね。
5個も必要な理由
入れ替え制なら2個でもいい気がします。
でも、2個、3個、4個じゃ足りないのです。
単純に、それだけ「君」は不安だったり苦しかったりしたのかもしれません。
でも具体的に5個と提示していることを考えると、「僕」が「君」を不安にさせていたのは決まって「平日の夜」だったのではないでしょうか。
平日に帰りが遅い分には、「仕事が忙しかった」と言い訳できちゃいますからね。
だから「君」は何も言えなくて、洗面所の電気だけつけておくというささやかな表現しかできなかったのでしょう。
粉々になった「僕」
「君」の心臓を不安でいっぱいにさせてしまった「僕」の罰は、「粉々」。
「君」の不安は心臓が5個あれば足りるくらいだったのに、そんな「君」を不安にさせた「僕」は、5個どころじゃなく粉々になってしまいましたとさ。
…もちろん比喩ですが、大事な人を苦しませた上に、自分のせいでその大事な人を失った気持ちの行き場はありません。
誰も正当化してくれないし、慰めてもくれません。
歌詞にある通りの「味のしない日々」に、「僕」は身も心もボロボロになったのでしょう。
まぁこの歌詞はおそらくフィクションですが、恋愛ソングの女王と名高いaiko様がこんな浮気男の気持ちを歌詞にしてくれたことに、世の浮気加害者は感謝して崇め奉れ。
行き場のない気持ちも、歌詞があれば「他にも同じ気持ちの人がいるんだ」って心が落ち着きますから。
「味がしない」から見える「僕」の今
最近はおとなしく家に帰ってるよ 君がいないと味がしないんだ
作詞:AIKO
曲中に2回出てくるこのフレーズ。
「味」といえば、先ほども出てきた『違う花食べた』というフレーズを思い出しました。
そこから、「君」じゃない花を食べたって味がしない、つまり「君」じゃないとだめだという風に捉えられます。
また、『夜明け前に帰る』日は、「君」ではない人とご飯でも食べていたのでしょう。
浮気ではなく、本当に仕事の付き合いだった日もあったでしょう。
でも先ほどの「レスであった」という仮説を正とするならば、どちらにしたって「君」には不満しか生みません。
「君」との問題をないがしろにしていた結果、「君」がいなくなった。
そして、「君」をないがしろにし、「君」より優先させていたことが、結果的に味気ないものになってしまった。
「君」がいない日々は、「僕」にとってもう何もないような状態になってしまったのでしょう。
ものすごく嫌な捉え方をすれば、「君」がいたから浮気も楽しかったとも解釈できます。
背徳感っていうんですかね。
浮気相手のこともきっと「君」がいなくなって罪の味がしなくなったから捨てたのでしょう。
そう思うとなんかムカついてきました。
ハニーメモリー:「味」に隠された意味
aikoにとっての「ハチミツ」
aikoさんは、過去に『ハチミツ』という楽曲もだしています。
そこでは、蜂蜜は「苦い」と表現されています。
というのも、aikoさん自身、蜂蜜があまり好きではないそうなんです。
今回の楽曲名は『ハニーメモリー』。
一見、蜂蜜のような甘い思い出という意味かな?といった印象を受けますが、上記のことを加味すれば「蜂蜜のように甘く、でも思い出すと苦い」思い出になったということでしょう。
立場によって違う「味」
aikoさんの楽曲では、感情が五感によって彩られています。
そして今回の『ハニーメモリー』でのメインは味覚。
『ハニーメモリー』での「僕」は「君」をないがしろにし、浮気をした結果、君との思い出だけがハニー(=蜂蜜)のように苦くて甘いになり、「君」がいないことで味のない日々に落ちてしまいました。
では、浮気相手はどうかというと。
以前この記事で『青空』の考察をしました。
「不倫だと分かってて付き合っていた女の歌では?」という解釈を元にすると、『青空』で『目の奥まで苦い』というフレーズが登場します。
後悔と反省とやりきれなさが滲む思い出は、単純に「苦い」ようです。
恋愛中の女の子はというと。
まさに『恋愛』という楽曲には『ぬるく熟した恋愛を食べる』というフレーズが出てきます。
フルーツって、冷やされたものより常温で放置した方がおいしいと感じるのは私だけではないようで…。
そんな甘い恋愛の瞬間も、aikoさんは味で表現していますね。
「味のしない日々」は誰にでもあり得ること
『ハニーメモリー』を聴いて、最初は「この浮気野郎!」と憤怒の気持ちが湧いてしまっていたのですが、何度も聴いているうちに
でも自分の過ちで大切な人を失うことは誰にでもあり得るよな
と思い、辛くなってしまいました。
私自身、「私は浮気なんてしない」と思っていますが、そんなのその時になってみたら分かりません。
恋人との間に埋められない溝があって、『言い訳』という心の隙が生まれたらと思うと、他人ごとではなくなってしまいました。
もし将来、「浮気しちゃおっかな」という悪魔が囁きだしたら、この『ハニーメモリー』という曲の歌詞を思い出したいです。
後悔ばかりで全てを失った味のしない日々。
そんな苦しみを背負ってまで味わう「違う花」の味は、蜂蜜のように一生口の中に苦々しく残り続けるのかもしれません。