松本隆さん作詞曲を集めたトリビュートアルバム『風街に連れてって!』が発売されました。
そのなかから今回紹介するのは聖子ちゃんの名曲、SWEET MEMORIES。
女性アイドルと言えば聖子ちゃん。
これは、平成が終わり令和の世でも不変の真理です。
母の影響で聖子ちゃんを聴くようになったので「ちゃん呼び」をご容赦ください。
プロの作詞家作曲家が一人のアイドルに向けた曲を作成する。
なんて贅沢な時代だったのでしょう。
ここからはやっと歌詞の話へ。
順を追ってこの曲のストーリーを解説していきます。
1番
Aメロ
なつかしい痛みだわ
作詞:松本隆
ずっと前に忘れていた
でもあなたを見たとき
時間だけ後戻りしたの
元恋人と、別れた数年後に再開したのでしょう。
顔を見ただけで、忘れていた感情が溢れ出す瞬間。
目の前のあなたの容姿は確かに変わっているのに、まるで付き合っていたときのような高揚感ともう一緒になることはないと悟ったときの喪失感が一気にフラッシュバックする。
そんな、様々な感情が交錯する「一瞬」を1番の冒頭で描いています。
「幸福?」と聞かないで
作詞:松本隆
嘘つくのは上手じゃない
嘘つくのは上手じゃないという印象的なフレーズ。
おしゃれな表現ですね。
この表現が回りくどくてすごく好きなんです。
「あなた」と燃え上がるような恋愛をしていたときほど今は幸せではないということ。
強がってか気を使ってか、それを正直には伝えられないこと。
でも上手く嘘もつけないとうこと。
幸せかどうか聞いてくるなんて余裕ぶりやがって、という苛立ち、焦り、悔しさ、もやもや。
この回りくどい一文で、聞き手によっていろんなストーリーが思い浮かびます。
友だちならいるけど
作詞:松本隆
あんなには燃えあがれなくて
燃え上がる恋って、恋に恋してた学生の恋愛かしら。
地位も稼ぎも経歴も考えることなく純粋に好きと好きをぶつけるウブな恋愛だったんだろうなぁ。
当時聖子ちゃんは21歳(Wiki調べ)なので、ずっと前の「あなた」との恋愛は学生の頃だったとも推測できます。
ちなみに「友達ならいる」って、体の関係の友達?って思ってます。
「あんなには燃え上がれない」と言って「あなた」と比較しているので。
愛情のない行為はそりゃあ燃え上がらないよなぁ。
サビ
失った夢だけが
作詞:松本隆
美しく見えるのは何故かしら
過ぎ去った優しさも今は
甘い記憶 Sweet memories
失った夢とは。
別れる前に描いていたあなたとの将来のことでしょう。
失ったからこそ美しく見えてしまいますよね。
結婚を意識する年齢になればこそ、あのとき別れていなければ、と思ってしまったり。
恋愛に生活の全てを賭けられなくなった年齢になればこそ、あの人以上に好きな人なんて現れない、と思ってしまったり。
今はここにない、忘れていたはずのあなたの優しさも、あくまで過去の良き思い出として残っていたんですね。
2番
Aメロ
Don’t kiss me baby we can never be
作詞:松本隆
So don’t add more pain
Please don’t hurt me again
I have spent so many nights
Thinking of you longing for your touch
I have once loved you so much
英語詞らしくしっかり脚韻を踏んでますね。
…茶化さずに言うと、私も歌詞の提供をすることもあるんですが、核心に迫る部分やどうしても直接的だったり具体的過ぎちゃう部分を英語にしたりしちゃうことがあります。
この部分を簡単に訳せば
「もうあなたで傷つきたくないんだわ。毎晩毎晩あなたを思い焦がれてたんだわ。」
ってとこですかね。
しかしここの部分、解釈が難しいです。
①hurtを別れの痛みと解釈
→別れた後も会ってキスなどしていたが、もう傷つきたくないから止めろと言っている。
②hurtをこの後出てくる「傷つけ合った」ことと解釈
→今まで愛し合ってたけどもう傷つくのは嫌なので別れた。
それでもあなたからの連絡を待ってしまう。
③Don’t kiss me 〜は夢でのセリフと解釈
→思い焦がれ過ぎて夢にあなたが出てきたが、期待して再び傷つきたくないからキスすんなと夢で言っている。
④時間軸は1番と同じ、つまり破局後数年を経た再開時と解釈
→お互い盛り上がっちゃって、キスなんかしちゃって、そんな自分に酔いつつDon’t kiss meなんて言っている。
④は可能性として低い気がしますが、私はこの説を推しています。
昔を思い出してしまう夢のような時間があった。
でもそれはこの曲の主軸ではないからあえて英語にした。
と解釈しました。
サビ
あの頃は若過ぎて
作詞:松本隆
悪戯に傷つけあった二人
色褪せた哀しみも今は
遠い記憶 Sweet memories
悲しみが「遠い記憶」、ってことはさっきの解釈④でもよくないですか?
ちょっと甘い気分になって、今は悲しみが遠い記憶。
解釈④、推せる・・・
多分マイノリティだけど、だからこそ推せる・・・
若すぎて傷付け合ってしまう。
それは価値観の違いを許容できない幼さだったり。
恋に恋するが故に妥協を許せない傲慢さだったり。
知識と経験の少なさによる気持ちのすれ違いだったり。
傷つけ合ったことによる、または別れたことによる悲しみも、色褪せて遠いものになっています。
でもこれきっと、この曲の中では時間の経過だけが原因じゃないですよね。
優しさは甘い記憶、つまり五感に残る記憶になっています。
冒頭で時間だけが後戻りしたことで、恐らくいい思い出ばかりが脳裏に焼き付いたのでしょう。
つまり、感情は「今」、五感+記憶が「当時」という状態に感じます。
噛み砕いて言えば、
「元カレに遭遇して心と頭がめちゃくちゃだわ!」
といったところでしょう。
この曲は、松本隆さんの歌詞にしては情景描写が少なくモチーフも全然でてこないですよね。
感情や時間の表現も曖昧だなあと感じます。
もちろん良い悪いでは全然なく。
感情メインの歌詞だからこそ、表現を曖昧にすることで解釈の幅や共感の幅を広げられているのではないでしょうか。